KISARAGI BIJUTSU STUDIO

Artist 作家紹介

喜多 祥泰 Yoshihiro KITA

自身の制作を「汎アジアと日本を繋ぐ蝶番」として捉える注目の日本画家です。
弊社では2008年より全国百貨店を中心に展覧会を開催しており、年間200点近くの作品が全国の美術愛好家に収蔵されています。龍や鳳凰、ヴェルトハイマ-の連続の奥に煌々と聳える桃源郷に咲く花の姿は、混沌とした現代の中に在りながら「ハレの美」を展開しています。同時に物質的な抽象表現を用いた作品も作家の意図を端的に表現した作品として高い評価を獲得しています。

喜多 祥泰
1978年 徳島県生まれ
1999年 よんでん文化振興財団奨学生 (以後'02まで)
2006年 東京藝術大学大学院博士後期課程美術研究科(日本画)修了
博士号取得/博士論文「森 影響し合い、反響し合い、取り込み合う存在」
2007年 東京藝術大学源氏物語絵巻現状模写事業参加
東京藝術大学赤坂日枝神社天井絵制作事業参加
2013-4年 研究協力=「チョウザメ(浮袋)からのアイシングラス試作評価」/独立行政法人 科学技術振興機構 A-STEP 探索タイプ採択研究
研究協力=「竹紙の絵画用紙としての改質研究」/中越パルプ工業株式会社
現在 沖縄県立芸術大学准教授 創画会会友
1999年 ふるさと美術展(高松市立美術館、以後'01 '04 '07' 10' 13)
2001年 第27回 春季創画展入選(以後 '02 '03 '05~'16入選)
2002年 個展(以後 '03 '04 '07 '08)
東京藝術大学日本画第一研究室発表展(以後 '02~'05 '08' 09 '11 '13 '16)
2007年 第34回 創画展入選(以後 '08~'15入選)
2008年 東京藝術大学日本画研究室作品展 「ひとつの現場から」
個展 春の杜(徳島)
2009年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(福井)
「三國G」 日韓中東洋画交流展
会場:韓電アートセンター(韓国 ・ソウル)上上国際美術館(北京)
※東京藝大側出品者として参加 以後2010年開催 日韓文化院(東京)
2010年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(横浜/八尾/大津/高槻)
個展 to the zenith -天頂への旅-(沼津)
日本学術振興会 二国間交流事業共同セミナー「日中の岩彩画教育と東洋画の将来展望」
(日本=東京藝術大学・中国=広州美術学院)※東京藝大側研究者として参加
2011年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(大宮/松山/筑波/所沢/船橋)
個展 Act of transforming -変容する行為-(池袋)
第62回 関西高輪会(大阪)
第82回 関東高輪会(東京)
2012年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(呉/広島/岡崎/旭川/千葉)
2013年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(徳島/渋谷/八尾/秋田)
2014年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(横浜/筑波/船橋/千葉)
2015年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(大宮/旭川/松山)
2016年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(神戸/八尾/福山)
2017年 個展 Rhythm of the forest -杜の律動-(岡山/徳島/大津/高松)
2018年 個展 Act of transforming - 変容する行為(池袋)
個展 謝赫へのオマージュ(日本橋)
2020年 個展 -美の存在と非存在-(岡山/高松/福井)

受賞歴

2007年 第34回 創画展奨励賞 受賞
2008年 第34回 創画展春季展賞 受賞
2009年 第35回 創画展春季展賞 受賞
2011年 第37回 創画展春季展賞 受賞
2019年 第4回Will+s展優秀賞 受賞
2020年 第 46 回創画展春季展賞 受賞
氏名(本籍) 喜多 祥泰(茨城県)
学位の種類博士(美術) 学位記番号博美 第151号
学位授与年月日 平成18年3月24日
学位論文等題目 〈作品〉変容する森
〈論文〉森-連動し合い、反響し合い、取り組む合い存在-
論文等審査委員 (主査)東京芸術大学 助教授(美術学部) 齋藤 典彦
(論文第1副査)東京芸術大学 助教授(美術学部) 佐藤 道信
(作品第1副査)東京芸術大学 教授(美術学部) 堀越 保二
(副査)東京芸術大学 教授(美術学部) 関 出

(論文内容の要旨)

 まぎれもなく人間は動物である。太古の昔、人類は周囲の厳しい環境の中で、すべての動物がそうす るように、必死に生活していた。その中で、言葉を覚え、道具を使い、想像すら出来ないほどの膨大な 時間の中で、知識と技術を蓄積し、文字を創り、文明を構築してきた。とくに情報を記録することで、 環境に適応する技術(道具の使い方や効率よく生活力を向上させる知恵)や、生存し続けるためのルー ル(社会生活の上で秩序をたもつ知恵)を積み重ね、現代の私たちの社会に至った。人間は記録するこ とによって、文明を持つ動物となった。
 そして、営みの中で記録されてきた行為は、用の美として、物としての機能と存在価値をも現代に伝 えて残っている。知と技の結晶である造形行為には、美しさと存在することの価値が明確にあった。
 しかし、ことばに始まり、文字の発明・造形行為と、ゆっくりと進んできた情報の蓄積は、都市化や、 文明の進展にともない加速を続けた。現代にいたっては、高度な情報機器と様々な通信機器を使用する ことで、社会にはかつて無いほどの情報があふれ、私たちはそれを記録し、把握することも可能になっ ている。情報を収集しようと特別に意図しなくても、新聞やラジオ・テレビを見れば、世界で今何が起 こっているのか、おおよその流れを知ることが出来る。同時に、生きていくために必要のなさそうな情 報も、数多く目にし、聞くことになる。以前よりも格段に豊富な情報の中で生活する私たちだが、情報 が増えるにともない、ひとつひとつの価値は逆に薄くなり続けている。加速する情報は、活字からさら にデジタル化され、多量かつ高速の流通へと社会の価値が移行することで、情報は記号化してきている。
 そして、より早く効率的に進む社会活動のなかでは、即座に、より多くの人に理解される表現が好ま れる。テレビのコマーシャルなら15秒、看板なら一瞬で情報を伝えなければならない。土地や人間関係 など、周囲の環境の中で営まれた昔の生活とは違い、情報を中心とする現代の都市では、スロウで高価 な造形より、大量生産の安価なもので十分なのかもしれない。
 このような現代社会において、造形行為は、どのような位置にあるのだろうか。また、造形行為を続 ける意味とは何なのだろうか。本論文は、この疑問に端を発し、制作を続ける中で気付いたことの積み 重なりの中から生じた、“記憶”というテーマについて論考している。  第1章では、法隆寺回廊見学の体験が、私に与えた影響について論じた。回廊の悠々とした佇まいに 受けた衝撃は、必然的なものであった。そこには、美しいことと存在することが内在しており、太古か ら私たちが憧れ、模倣してきたフルクタル・カオス形が存在していた。制作の型に疑問と違和感を抱い ていた私は、そのフルクタル・カオス形の力強さに、制作の可能性を感じ、傾斜していった。

 こうして制作の起点を模索していた私に、「森」ということばが意味を成してきた。一見、何の関連性 もない作品に、共通した原風景があることに気付き、自分の趣向が、過去の経験や記憶の集積から成り たっていることに驚いた。何かを表現する過程で、私の中で様々なことが関係し合い、一つの方法を選 択していく。その選択のひとつひとつに、記憶の蓄積からなる混沌とした固まり(森)が、うっすらと しみだし影響している。第2章では、幾多の経験と認識の積み重なりである記憶を、「思い出す」行為と、 その造形過程での様々な相互作用から、フルクタル・カオスの森として論じた。
 第3章では、記憶の変容と、記憶のシステムについて論じた。
 普段私たちは、記憶ということばで表される脳の機能を思考に組み込み、生活している。しかし、保 存された記憶は、一定の割合で消えていくばかりか、内容も変わっていく。あとの出来事の登場によっ て、前の出来事の重要度が変わり、多かれ少なかれ覚えておきやすい形に整えられるのだ。このとき、 似たような出来事が融合され、部分部分は正確であっても、全体としては不正確なひとつの記憶ができ あがる。ここに、記憶のフルクタル・カオス性を見て取れる。
 この記憶のシステムは、脳の整理・精神のバランスを保つために、常用で必要な機能である。確かに、 思い出す行為も、正確に記憶を反芻しているものではない。学説のとおり、思い出すものは、現在の私 のフィルターを通して変化している。しかし、現在の自分から遠い記憶を思い出そうとするにしたがっ て、記憶の書き換えによって、変化する自分に気付き、それがまた自己化していく記憶システムの絶妙 なバランスを感じた。記憶という思考と成長に深く関わる機能は、生活や、制作を通した作品との相互 作用の中で、変容し続ける私自身であると思う。制作も含め、人の営みすべてを造形とみなすなら、造 形が続くかぎり、私の中心は動き続け変容し続ける。
 制作に常に関わり、内部から染み出す記憶は、森のように境界があいまいだ。森は、木などの様々な 植物、多種にわたる動物や昆虫、地中の菌や土など、膨大な生物・有機物からなる固まりとして存在す る。その固まりを形成する生物は、固体として見ても集団として見ても、その内部の様々なレベルで、 つねに各種の相互作用を通して自らを維持している。同様に記憶のシステムも、認知と錯誤の矛盾を抱 えながら変容し続ける。外部に対して開いたシステムなのである。
 第4章では、身体を通して感じる記憶、そしてその土壌にある記憶について論考した。
 泥遊びをした子どもの頃の記憶が、絵の具をといているときに、ふいに蘇ることがある。このとき、 当時の視線の高さの映像など、断片的な記憶が集まり、泥遊びの記憶となって再現される。一方、身体 はボールいっぱいの絵の具をこね続け、行為の再現と継続を続ける。そして、それをまた記憶する。造 形することを通して、頭と手が繋がりぐるぐる回る。この身体に関わるアナログな記憶過程が、私の制 作と切り離せない。森や記憶にフルクタル・カオスのシステムが存在するように、造形と私の関わりに も、森や記憶が内在する。
 このような森に関する制作が、私と周囲に蓄積されている記憶と行為の存在と、日本画という物質的 な絵画の伝統的な手法のすばらしさ、そして同時にもどかしさにも気付かせてくれた。日本では、江戸 時代以降、制度化社会が進み、遠のいていく肉体に反して、進み続ける情報化によって、時間と身体の 密接な関わりが薄れてきた。
 しかし、記憶と行為の蓄積である造形行為や、開いたシステムである身体、またそれらが森のように 複雑な相互関係の中で存在する社会の中で、生きたシステムは変容を続ける。廻廊をきっかけに、フル クタル・カオスを理解してきたように、造形を通して、記憶は、連動し合い、反響し合い、取りこみ合 う可能性を秘めていることを認識するようになった。
 造形には身体による痕跡が残る。じんわりと伝わる身体の記憶は、身体から造形、造形から身体へと 循環し続ける。確かにそこで造形は、情報として、つまり“点”として存在する。しかし、“動く”存在 である私たちの記憶の中で、点は線になり、形をえて残っていく。私が、様々な方と関わり経験と認識 を重ねながら成長してきたように、変容しながらも開いた存在として、絵を描いていかねばと思う。そ して廻廊のように、様々な人を通して、連動し合い、反響し合い、取りこみ合う絵をかきたい。そうす ることで、ここまで続いてきた、この記憶によるつながりを、続けていかねばと思う。変容しながらも 開かれた存在として、作品をつくり、造形を続けていかねばと思う。私自身が、さまざまな人による造 形であり、これまでもこれからもずっと続いていくことなのだから。

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喜多 祥泰
1978 English Text.English Text.English Text.
1999 English Text.English Text.English Text.
2006 English Text.English Text.English Text.
2007 English Text.English Text.English Text.
2013-14 English Text.English Text.English Text.
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